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28#

決勝戦レポート

佐藤慎太郎(福島・78期)

アッと驚く佐藤慎太郎のV

 平成から令和へ。時代が移り、輪界も競走形態に変化が生まれたが、追い込み選手が輝きを失うことはなかった。
 「速いだけ。若さ、スピード、脚力だけで勝てるっていうんじゃないのが競輪の面白さだと思う」
 脇本雄太、新田祐大に代表されるナショナルチームが、競技だけでなく競輪でも活躍。6月のルール改正もあって、自力タイプ全盛の流れは加速した。それでも佐藤慎太郎は、2月全日本選抜の準Vをはじめ、着実に賞金を積み重ねて13年ぶりのグランプリ(GP)チケットをつかみ取った。
 「(03年から4年連続で出場した)当時のようなギラつきというか、ガツガツしたのがなくて、(今回は)落ち着いてすごせたのがよかったのかと。当時は獲りたい気持ちはもちろん、“佐藤慎太郎”っていうのをアピールしたいっていうのもあった」
 先輩には岡部芳幸、伏見俊昭、そして後輩に山崎芳仁。そうそうたる同県の仲間たちのなかで、自らのポジションを確立させる必要があった。そこから10年以上の時が流れ、佐藤も40代に突入。出場メンバー最年長でのグランプリのパートナーは新田だった。
 「(ここまでは)自分のなかで、もうダメだなって思うことは一度もなかった。またいつかグランプリに出られる。そしてG1を獲れるって思ってやってきた。それを支えてくれた人たち、応援してくれたファンも含めて、少しは恩返しができたと思います」
 3度のビッグ準Vでグランプリ出場にはこぎつけたものの、今年はビッグを34走して2着が13回。ここまでビッグでの勝ち星はゼロだった。
 「(グランプリの優勝は)格別というよりも、自分でも信じられないというか、実感がわかないですね。(ファンの声援が)グッと来て涙が出そうになりました。やっぱりずっと応援してくれている人たちが、本当に喜んでくれている姿も見えましたし、本当にうれしかった。本当は泣きたいくらいの感じなんですけど、僕が泣いたらおちょくられますからね(笑)。恥ずかしいんでこらえました」
 レースの流れをつくったのは大方の予想通り、ナショナルチームの2人だった。脇本が抜群の加速力で主導権を握ると、新田が驚異的なダッシュ力で番手に飛び付く。外に浮いた村上博幸が遅れ、脇本、新田の両者の勝負かに思われた。が、最後に物を言ったのは、経験に裏打ちされた佐藤の追い込みのテクニックだった。逃げる脇本と外を踏み込む新田との間を絶妙なタイミングで入り、ハンドル投げで4分の1輪、脇本を交わした。
 「(新田は)何本もG1を獲っている選手だから。新田の後ろってことで、そこに付くってことだけを考えていれば良かった。それは気持ち的に楽だったかもしれない。(ゴール直後に優勝したかは)わかりませんでした。ファンの方は、みんな(佐藤)慎太郎だって言ってくれてて、それでビジョンを見たら僕が写っていた。ただ、一度間違ってヘルメットを投げてしまったことがあるんで今回は確認してからにしました」
 グランプリに出場した9選手のなかで、追い込み選手は佐藤と村上の2人だけ。追い込み選手がグランプリに出場するのですら厳しい時代に、佐藤はグランプリを制した。
 「僕は生涯競輪選手であり続けたい。また来年も再来年も、またこのグランプリの場に戻ってこられるように。あきらめることなくですね。強い時だけではなく、ちょっと調子が悪い時も、慎太郎はもう終わったんじゃないかと言われた時もあったと思うんですけど。あきらめずに応援してくれたファンのみなさんと、喜びを分かち合えて本当にうれしい。でも、いぶし銀じゃなくて、ピカピカの銀になっちゃいましたね(笑)」
 11年以来のS級S班はチャンピオンの証、純白のチャンピオンジャージをまとい、追い込み選手としての存在価値をさらに高めていく。
 
 先行勝負で出し切った脇本雄太は惜しくも準優勝。〝先行日本一〟のプライドを持って戦った。
 「グランプリ史上、何人かしか達成していない先行逃げ切りを狙ってました。宣言通りインパクトのあるレースがしたかったのは本心だし、納得はしています。結果は残念だけど、あともうちょっと。まだグランプリで終わりじゃない。戦いは続くので」
 
 「すごいレベルの戦いだった。もうちょっと直線があれば…。伸びていったけど足りなかった」とは、直線で外を強襲した平原康多。
 「スピードを殺したくなかったんで、松浦(悠士)に当たっていったけど、清水(裕友)と郡司(浩平)の間を行ってれば。でも、自分のその時の判断だった。悔しいですけど、(優勝を)狙った結果ですから」
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レース経過

 号砲で出た佐藤慎太郎が前を取り、新田祐大を入れて福島コンビが前受け。清水裕友-松浦悠士の中国コンビが3、4番手で、中団に平原康多と中川誠一郎の単騎の両者、7、8番手に脇本雄太-村上博幸の近畿コンビ、最後方に郡司浩平で周回を重ねる。
 赤板を過ぎても動きはなく、新田が誘導との車間を切ってけん制し始める中、脇本は打鐘から一気に反撃に出る。合わせて踏んだ清水の上を行った脇本は、最終ホームで新田を叩いて先頭に。しかし、新田も引かずに飛び付き策に転じると、遅れ気味の村上をさばいてあっさり番手を確保する。1センター過ぎから再び清水が仕掛けるが、なかなか車は進まない。絶好の展開となった新田が2センターで踏み出すと、同時に佐藤は新田の内のコースに進路を取って直線へ。新田は伸びなかったが、最後は佐藤がゴール手前で逃げる脇本を鋭く交わして13年ぶりの大舞台で優勝を飾った。2着は、援軍を失いながらも逃げ粘った脇本。最終バック8番手の平原は、2センターで松浦の内のコースを踏み、直線で伸びて3着に入った。
車番 選手名 府県 期別 級班 着差 上り 決まり手 H/B
1 4 佐藤 慎太郎 福島 78期 SS 11.3 追込み
2 3 脇本 雄太 福井 94期 SS 1/4W 11.5 逃残 H B
3 8 平原 康多 埼玉 87期 SS 3/4W 10.9
4 7 新田 祐大 福島 90期 SS 1/2W 11.5
5 5 清水 裕友 山口 105期 SS 1/2W 11.3
5 6 郡司 浩平 神奈川 99期 SS 1/2W 11.3
7 2 松浦 悠士 広島 98期 SS 3/4W 11.2
8 1 中川 誠一郎 熊本 85期 SS 2B 11.1
9 9 村上 博幸 京都 86期 SS 4B 11.8

松本貴治がスピードバトルを制す

 次世代の競輪界を担う111期と113期の精鋭による頂上決戦は全員が単騎を選択したことで、個と個の争いになったが、流れに応じて冷静沈着に立ち回った松本貴治が最後に温存していた末脚を爆発させた。
 「(初手は2番手で)南(潤)が何かしらすると思ってたんで、その後ろにいられて最初はいい位置が取れたなと思ってました。(レースが動き出した)あの時は野口(裕史)さんが一切緩めずに目いっぱい踏んでたんで、とりあえず詰める勢いでという感じでした。それで(最終)バックら辺で後ろもまだ来てない感じだったんで、最後の直線も長いので、ためてためてって感じでしたね。ずっと軽い感じはしてました」
 愛媛ライン3車の先頭を務めた昨年のヤンググランプリは先行策で見せ場を作ったが、単騎を選択した今年は勝ち徹してラストチャンスをモノにした。タイトルを獲得したことで周囲の期待は大きく高まる。
 「まさか獲れるとは思ってなかった。一発レースで勝てたんで自信にはなりました。まだG1とかでもなかなか予選とか通過できない実力なんで、しっかり頑張っていかないとなっていう感じですね。(今後は)しっかり四国の先輩方に信頼してもらえるような先行選手になってG1の決勝に乗りたいです」
 清水裕友、松浦悠士のS班2名を筆頭に勢力を増している中四国勢。成長を続ける松本がけん引役として20年のビッグ戦線を賑わす。

 先行した野口裕史の番手に入って絶好かと思われた森田優弥だったが、松本に伸び負けた。
 「先行も考えていたんですけど、踏み合ってはダメですからね。自分でも踏んで行ったんですが、野口さんが来てくれたんで。完全にタマタマですね。詰めるというよりも自分が楽だと思う位置で回してました。まくっていこうかと思ったんですけどキツかったです。余裕はあったんですが、知らないうちに脚を使ってました」

 3位入線の上田尭弥は内側追い抜きにより失格。後方からまくり上げた松井宏佑が3着に繰り上がった。
 「見すぎちゃいましたね。結果、行ってしまえば良かったです。ダメですね…。調子は悪くなかっただけにもったいない。脚は余っていたけど、自分のレースに持ち込めなかったです」

 全員が単騎のレースで主導権を握ったのは野口裕史。ゴール後に落車したが、大舞台でしっかりアピールした。
 「1周半なら行けるかなって感じはありました。練習通りに踏めたんですけど、最後はタレました。もう少し遅めに行ければ良かったんですけどね。(落車の怪我は)首と全身の筋肉が硬直している感じだけど大丈夫そうです」

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レース経過

 全員が単騎のヤンググランプリは1番車の南潤が前受け。以下は松本貴治、森田優弥、藤根俊貴、野口裕史、松井宏佑、上田尭弥、河合佑弥、宮本隼輔の並び。
 青板2センターから河合が上昇を開始。1コーナーで誘導員が退避したところを一人で前に出る。河合はペースを落とし、南が河合との車間を切って後続をうかがうと、野口が2コーナーから踏み上げて打鐘過ぎから主導権。合わせるように打鐘前から踏み上げた森田が車間を残したまま野口を追いかける。松本が河合の内をすくって1車上がると、その外をまくっていた宮本は浮いた河合が邪魔になり不発に。2センターから車間を詰めた森田が直線で野口をとらえると、続いた松本が外を鋭く伸びてラストチャンスでヤンググランプリを制覇。人気の松井にとっては7番手の南まで口が空いた8番手に置かれてしまっては前が遠すぎた。3コーナーから大外を踏んだが、内側追い抜きで失格になった上田に代わり3着に入るのが精いっぱいだった。

児玉碧衣が史上初のグランプリ連覇

 まさに完勝だった。児玉碧衣が豪快なまくりで圧倒。ライバルの小林優香との力勝負を制して史上初のガールズグランプリ連覇を成し遂げた。
 「(初手の位置取りは)本当は3番手、4番手ぐらいがほしくて。気付いたら6番手だったので、どうしようかなって思っていたんですけど、佐藤(水菜)選手が内を空けたのでそこはすくって。(小林)優香さんの番手の状態になったので、優香さんより先に踏みたいなって思ってて。その通りになって、(乗り)越えられたので良かったです」
 最終3コーナーで石井寛子、梅川風子の2名が落車。審議対象となったが「自分が締めたつもりもなかったので。審議にあがったときはヤバいかなって思ったんですけど、何とかセーフで良かったです」とホッと胸をなでおろした。
 今年はガールズケイリンのトップを走り続けた。2位の石井寛子に1千万円以上の差をつけ、2年連続の賞金女王に輝いた。
 「今年は自分の中で精神が一番安定していました。納得のいくレースが自分の中で増えてきた1年でした。来年はまた新人も入ってきますし、手の届かない存在になっていきたいなっていうのがすごくあるので。責任を持ってまた1年間、大きいレースからグランプリまでしっかり気持ちを入れて。大きいレースは全部優勝することと、グランプリ3連覇を目指して頑張りたいと思います」
 児玉の進化はまだまだ止まらない。絶対女王としてガールスケイリンを引っ張っていく。

 石井貴子は2年連続のグランプリ準優勝。最後方から落車を避けて追い込んだが、優勝に手が届かなかった。
 「もう本当に悔しくて…。今回は自力選手が多くて、組み立てが難しかったですね。後方になって前が(児玉)碧衣ちゃんだったので昨年のリベンジと思って信じて付いていけば良かったのかな。外を踏んで戻って中途半端でした。落車に巻き込まれそうになって、そのあとに必死に踏んだけど2着まででした。碧衣ちゃんが本当に強かったです。まだまだ頑張れって神様に言われたということですね」

 小林優香は児玉との力勝負に敗れて3着。人気に応えることはできなかった。
 「自分の動く位置とか間の取り方が下手くそでした。展開の読みが甘かったです。言いわけできるならいくつかあるけど、これが本職で車券を買ってくれている人もいるので、しっかり結果を出さないといけなかった。このあとは世界選に向けてトレーニングします。(日本のレースは)次にいつ走れるか分からないけど出直します」

 持ち味の先行勝負に出た奥井迪は地元ファンの声援を背に、最高の舞台を悔いなく走り抜けた。
 「興奮しました。全然、緊張もしなくていけるかなって思ったんですけどね。この風の中で先行してバックも取れたので来年につながります。(児玉)碧衣ちゃんに力負けです。やっぱり女王ですね。地元の大声援を聞いて、また1年後、この舞台に戻って挑戦したい気持ちが強くなりました」

 グランプリ初挑戦の佐藤水菜は児玉の動きが想定外だった。
 「(児玉)碧衣ちゃんは外から来ると思っていたので、内から来られてびっくりしました。でも、流れの中で碧衣ちゃんの後ろに入れたんですが、落車があって見ちゃいました」

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レース経過

 大外から踏み上げた奥井迪が前受け。その後ろから石井寛子、梅川風子、小林優香、佐藤水菜、児玉碧衣、石井貴子の並びで周回を重ねる。
 打鐘前から梅川が車間を切って後方からの仕掛けに備えるが、打鐘で誘導員が退避しても隊列に変化はなく、4コーナーから奥井が徐々にピッチを上げる。大きく空けた車間をホームで半分まで詰めた梅川だが、すぐには仕掛けず。残りの車間を詰めた2コーナーからまくって出る。その後ろから小林、さらにホームで佐藤をすくって小林の後ろに上げていた児玉が次々と持ち出してバックからは3人が折り重なってのまくり合戦に。大外を踏んだ児玉が2センターでわずかに前に出ると、小林の後輪と接触した梅川、さらに石井寛が落車してしまう。4コーナーで単独になった児玉がそのまま押し切って2年連続のガールズグランプリを制覇。バック最後方になった石井貴だったが、落車を避けると鋭く小林をとらえて2着に食い込んだ。